サイエンスの時代

Googleの勢いが止まらない。Bardと呼んでいたころの生成AIは使えなくて、ChatGPTの独壇場かと思われたが、Geminiの登場でついに逆転しそうな勢いになってきた。これはGoogleが「サイエンスの時代」に向け、着実に力を蓄えていた証拠なのだろう。

この背景には、流行に乗るだけでは到達できない領域を見据えたGoogleの姿勢がある。あらゆる産業は高度化すると、その進歩は必然的に表面的な改善から、原理原則に基づく科学的なアプローチへと収斂していく。Googleもこれに則って「サイエンス」としてAI基礎研究へ深く投資し続けてきたのだろう。

多くの生成AIモデルの基礎となっているTransformer技術についても、Googleは特許権を独占的に権利行使する道を選ばず、技術力で真っ向から勝負したと考えられる。このオープンな戦略が、結果としてAI分野全体の発展を促し、Google自身の技術革新へと繋がったと言える。

テクノロジーカンパニーにおいては、優れた技術があってこその知財であり、知財だけで技術が伴わなければ真の進歩は望めないのではないだろうか。

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脱AI

日経新聞の2025年5月18日朝刊1面に「AIにあらがう将棋棋士」という記事が掲載されました。

将棋の世界ではAIがプロ棋士の強さを凌駕したとも言われており、多くの棋士がAIを研究ツールとして活用しています。そんな中で「あらがう」とはどのような意味を持つのでしょう。記事によると、AIが必ずしも高い評価をしない戦法を、トップ棋士があえて採用する動きに見られるようです。

これは、将棋界だけの話ではないように思います。昨日のブログで日本ではDifyのようなローコードツールが注目を集めている一方で、海外ではエンジニアが自らコードを書いてシステムを構築する文化が根強い、という話に触れました。AIが人間の知的な作業をサポートしたり、人間の能力を大きく超える成果を出したりする中で、人間がAIとどう向き合い、自らの専門性や創造性をどう発揮していくのかは、多くの分野で共通するテーマと言えます。

将棋棋士がAIに「あらがう」というのは、AIの評価値や推奨手を鵜呑みにするのではなく、そこに人間ならではの大局観や美意識、勝負の駆け引きといった要素をどう織り込んでいくか、ということなのかもしれません。AIの力を借りつつも、最終的には自分自身の頭で考え抜き、人間同士だからこそ生まれる深い読みや独創的な一手で勝負を挑む。そんな棋士の気概のようなものが「あらがう」という言葉に込められていると思います。

将棋界では、AI研究が深化して定跡が高度化し、膨大な暗記と研究時間が求められるようになっているそうです。徒労感すら感じさせることもあるといいます。そんな中で、AIの評価値だけを追い求めるのではなく、人間ならではの深い思考や、相手の心理を読むといった駆け引き、「自分自身の将棋」を貫こうとする姿勢が「あらがう」姿に現れているのかもしれません。

Difyのようなツールが「誰でも簡単に」を実現してくれるのも素晴らしいですが、専門家が深い知識や経験を持ち、AIが「正解」とするものに疑問を投げかけ、独自の価値を追求する姿勢が、これからの時代にますます重要になってくるのではないでしょうか。

AI技術が私たちの仕事や生活に急速に浸透していく中で、この「AIにあらがう将棋棋士」たちの姿は、人間がAI時代にどのように主体性を保ち、創造性を輝かせていくべきかヒントを与えてくれそうです。

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Difyが日本で流行っているのはなぜか

最近、本屋に行ってよく目にするのがDifyというローコードツールの本です。昨年辺りから流行りはじめたのですが、本屋でも新刊を目にするようになりました。

Difyが流行っているのは主に日本のようです。松尾研でDifyのYouTube動画を出していたので、アカデミアからの発信が注目度を高めたのかもしれません。

以前、RPAツールがブームになった際、日本がその主要な市場の一つであったという話があります。その背景には、ITの専門知識があまり高くない日本の人々でも比較的容易に利用できたためではないか、という見方がありました。

それでは、海外で何が流行っているかというと、Replitというコードを書いて実装できるプラットフォームが流行っているそうです。

GAFAの知財部はソフトウェアエンジニアが沢山いると言う話を聞いたことがあるのですが、「自分たちで作り上げる」と言う文化が根強いことが背景にありそうです。

日本ではエンジニアでも自分でコードを書かなかったりします。今では生成AIでコードを書くのが楽になっているので、自分で書いたコードを読んだ方がエンジニアにとっても良さそうな気がします。

このままDifyが流行っていくのか、それとも生成AIの進化によって「誰もがコードを書く」世界にシフトしていくのか。

非常に興味深いです。

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Microsoft 365 CopilotでResearcherとAnalystが使えるようになりました

私のMicrosft 365 CopilotでもResearcherとAnalystが使えるようになりました。早速、Researcherから試していきます。

ResearcherはChatGPT o3をベースに作られたDeep Researchと言われています。現状では英語で表示がされますが、日本語で入力しても特に問題なく動作しました。

とりあえず、「知財サイエンス」でリサーチをかけてみました(自分が代表なのでハルシネーションチェックがしやすい)。

Deep Researchと同様に幾つかの質問が来ました。

それに回答するとリサーチ開始しました。この辺りはChatGPTのDeep Researchと同じですね。

調査結果を載せようかと思ったのですが、ResearcherはMicrosoft 365上のドキュメントやメールなどもソースに追加してリサーチしていたので、載せるのを止めました。この点はDeep Researchとは違った出力が得られている印象です。

ただし、ChatGPTのDeep ResearchでもShare Pointをソースに追加できるようになったので、それに近い出力になると言えばイメージ出来ると思います。ウェブだけで検索して欲しいときにそれが出来るのかが分かりませんでした。

最初の質問のやり取りのところでウェブ検索だけでリサーチしてくださいと答えれば、そのように動作するのか確認したいと思います。

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松尾研の講座

私は6年前から大阪大学でAIを研究しています。社会人学生だと松尾研の講座を取ることが出来るので、これまで色んな講座を受講してきました。

・AI経営講座 AI Business Insights 修了
・グローバル消費インテリジェンス寄附講座(GCI) 修了
・大規模言語モデル(LLM) 修了

これらを通じてデータサイエンスやLLMを理論と実装の両方で学ぶことが出来てとても有意義でした。現在は、「AIエンジニアリング実践」と「深層学習基礎」を受講中ですが、これまでの講座と比べてもかなりハイレベルです。

「AIエンジニアリング実践」では、Gitの使い方を学びつつクラウド環境へのデプロイなど生成AI系のアプリ開発を通じて行っていくというもので実践的です。実際の仕事を想定した内容になっていて、修了後も社会実装が出来るような内容になっています。

「深層学習基礎」は、基礎といっても学問での基礎は難しいのが常で、理論寄りでAIエンジニアリング実践とは対照的です。毎回コーディングの宿題が出て、自分が書いたコードの性能が自動採点されて、ランキングで点数を受講生同士で競い合うシステムになっています。また、E資格の受験資格を得ることも出来て、E資格の対策講座もあります(意味があるかどうか分からないですが、念のためE資格用の講座も受講しています)。

一方で、大阪大学ではGraphRAGの研究を主に行っています。といっても、過去に研究した2つの内容をブラッシュアップして論文投稿に向けて準備中で、そちらが忙しくてなかなか手が付けられていません。今回ホームページに公開した「Webアプリ」は箱を用意しただけですが、研究で出てきた成果(発表済みのもの)を今後は実装する予定で、この分野の研究の発展につながればと思います

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